Microsoft 365 vs Google Workspace

「Excel だから Microsoft」の前に知っておきたい 6つのこと

Microsoft 365 vs Google Workspace

「うちはずっと Excel だし、やっぱり Microsoft が無難だよね」

グループウェアの選定で、こう考える経営者の方は非常に多いです。Word、Excel、PowerPoint——30年以上にわたって日本のビジネスを支えてきたツールたち。使い慣れたメーカーを選ぶのは、ごく自然な判断に思えます。

ただ、ここで一つ、冷静に考えてみてほしいことがあります。

「Excel が使えるから Microsoft 365」は、本当に正しい選び方でしょうか?

結論から言うと、その判断には「グループウェアの選定」と「デスクトップアプリの選定」の混同が潜んでいる可能性があります。そしてこの混同が、年間数十万円単位のコスト差を生むことがある。

この記事では、中小製造業(10〜100名規模)の視点から、Microsoft 365(以下 MS365)と Google Workspace(以下 GWS)を 6つの軸 で公平に比較します。どちらかを持ち上げる記事ではありません。経営判断に必要な事実を、できるだけ凝縮してフェアにお伝えします。

📌 この記事でわかること

  • そもそも「グループウェア」(MS365 や GWS)とは?——エクセルやワードといった「デスクトップアプリ」とは別物
  • 価格、AI、現場環境、セキュリティ、紙対応、ノーコード開発の 6軸比較
  • 30名規模の製造業での、リアルなコスト試算
  • 自社に向いているのはどっち?具体的な判断基準
  • そして——「どちらか一方に決める」必要は、実はないかもしれないという話

※ 本記事の金額は 2026年3月時点の税抜き価格です。ライセンスの購入元によっても変動しますので、最新の正確な情報は必ず各サービスの公式サイトでご確認ください。

まず整理しておきたいこと——MS365 と「MS Office」は別物です

比較に入る前に、一つだけ確認させてください。ここを押さえずに選定に入ると、判断の前提がずれてしまうからです。

Microsoft 365(MS365) は、メール(Outlook)、オンライン会議(Teams)、クラウドストレージ(OneDrive / SharePoint)、そして AI機能(Copilot)などを含んだ グループウェア です。

一方、多くの方が「マイクロソフト」と聞いてイメージする Word、Excel、PowerPoint のデスクトップアプリ。これらは従来は「Office」や「Office 365」という名称で提供されており、現在は「Microsoft 365 Apps for Business」(以下 MS365 Apps)という 別のライセンス で提供されています。

つまり、「Excel のデスクトップアプリを使いたいから MS365」という判断は、グループウェアの選定デスクトップアプリの選定 を一緒くたにしている可能性がある、ということです。MS365(グループウェア)は、MS365 Apps(デスクトップアプリ)を含んでいることも多いため、余計に混乱しやすいです。しかし本来は両者は別物であり、Excel が必要だからといって必ずしも MS365 を選ぶ必要はありません。

この記事では、グループウェアという同じ土俵 で MS365 と GWS を比較します。デスクトップアプリの話は、記事の終盤で改めて触れますので、少しだけお待ちください。

比較軸① 基本機能と価格——表面上は「ほぼ互角」に見えるが

両サービスの主力プラン同士で比べてみましょう。

差は月額 274円。年間でも 1人あたり約 3,300円です。正直、この差だけなら「どっちでもいい」と言いたくなりますよね。

ただ、基本スペックを少し掘ると、意外な違いが見えてきます。

1. まず、クラウドストレージの仕組み が異なります。

  • MS365 は 1ユーザーあたり 1TB を個別に割り当てる方式。
  • 対して GWS は 2TB × ユーザー数を プール型 で組織全体に配分します。

30名の会社なら、GWS は組織全体で 60TB を柔軟に使い回せる計算です。特定のスタッフが図面や現場写真など大容量ファイルを集中して扱うことも多い製造業では、この柔軟性の差がじわじわと効いてきます。

2. つづいて、文書作成、表計算、スライド作成といったOfficeツールです。

  • MS365 は、Word、Excel、PowerPoint のデスクトップアプリ・Webアプリ・スマホアプリをすべて含んでいます(Business Standard 以上)。
  • 対する GWS では、Google ドキュメント、Google スプレッドシート、Google スライドというサービス名で提供されますが、そもそもデスクトップアプリが存在しません。 Webアプリとスマホアプリのみの提供であり、原則としてすべてのデータは、ローカル端末(手元のパソコンやスマホ)ではなくクラウドに保管されます(ただし必要に応じて端末に同期させることは可能です)。

3. もう一つ、見落とされがちなのが 現場作業者向けプラン の存在です。

製造業では、全員がフルスペックのグループウェアを必要とするわけではありません。メールやファイル共有だけ使えればいい、という現場スタッフも多いはずです。

  • MS365 の現場向けプランは、F1(月額 399円)や F3(月額 1,199円)が提供されています。いずれもメールやチャット、ストレージやファイル共有を含みます。ただしデスクトップアプリは含まれません。
  • GWS には Frontline Starter(月額 520円)や Frontline Standard(月額 1360円)というプランがあり、いずれもメールやチャット、ストレージやファイル共有を含みます。ノーコード開発ツール(AppSheet)も利用できるのがポイントです。

両サービスで大きな差はなく、データ容量が大きく制限されている点も共通ですが、これらはそもそも知られてない場合も多いので、ここで取り上げました。ただし、GWS で AppSheet が含まれている点は、業務ツールを内製したい場合は大きなメリットです(後述)。

例えば、現場作業者が 15名いる会社でいきますと、この15名分のライセンスを、MS365 Business Standard(月額 1,874円) から F1(月額 399円) に見直すことで、月額 22,125円、年間約 26.6万円のコストダウン が可能です。

比較軸② AI機能と「AI込みの実質コスト」

2025年以降、グループウェア選びで最大の判断材料になりつつあるのが AI機能です。組織のメールやドキュメントを横断的に検索し、要約し、提案してくれる——そんな AI活用の可能性は、前回の記事でもお伝えした通りです。

では、その AI機能のコストはどうなっているか。

GWS には AI機能 Gemini(ジェミニ) が Business Standard プランに 標準搭載 されています。メールの要約、文書の下書き作成、スプレッドシートのデータ分析、会議の議事録自動生成——すべて追加費用なしで全ユーザーが使えます。

対する MS365 の AI機能 Copilot(コパイロット)別売で月額 3,148円

AI込みの実質コスト を並べてみましょう。

  • GWS(AI込み): 月額 1,600円
  • MS365(AI込み): 月額 5,022円(1,874円 + 3,148円)

約 3.1倍。 月額 274円に見えていた差が、AI を加えた途端に 月額 3,422円の差 へ跳ね上がります。

「AI はまだ使う予定がないんだけど……」という声もあるかもしれません。ただ、AI は「いつか入れるオプション」ではなく、2025年以降は「グループウェアの基本機能」になりつつあります。「標準で使える」環境と「追加で買わなければ使えない」環境の差は、今後ますます広がっていくでしょう。

さらに、Copilot には 導入前の準備コスト が隠れています。MS365 の裏側にあるファイル共有ツール SharePoint の権限設定が適切でない場合、Copilot が「本来見せてはいけないファイル」の内容まで回答に含めてしまうリスクがあります。これを防ぐための権限整理に、中小企業でも数十時間の作業が見込まれます。

GWS の Gemini にはこの問題がほぼ発生しません。Google ドライブの共有モデルがシンプルで、「そのユーザーがアクセスできるファイルだけ参照する」という制御が最初から自然に機能している場合が多いためです。

比較軸③ 現場の IT環境——デスクレスワーカーと共有PC

製造業の特徴として、従業員の約半数が PC の前に座らない という現実があります。工場のラインに立つ人、倉庫を走り回る人、客先に出向く技術者。彼らにとって IT ツールとの接点は、スマートフォンやタブレット、あるいは事務所に置かれた共有PC です。

この点、スマホやタブレットといったモバイルからの利用環境 では、GWS に分があります。Gmail、Google ドライブ、Google Meet はいずれも軽快に動作し、低スペックのスマートフォンでもストレスが少ない。加えて、GWS に標準搭載の AppSheet を使えば、QR コードスキャン、バーコード読み取り、写真添付つきの日報アプリなどを、プログラミングなしで作成できます(詳しくは比較軸⑥で後述します)。

さらに、共有PC では MS365 に意外な落とし穴があります。

Excel などのデスクトップアプリが Microsoft の強みですが、MS365 Business Standard は SCA(Shared Computer Activation:共有コンピューターのライセンス認証)に非対応 です。1台の PC に Word や Excel のデスクトップアプリをインストールして複数人で交代利用する——製造業ではよくある運用ですが、これは ライセンス違反 にあたります。

「え、でもうちは今フツーに動いてるけど?」

はい、技術的には動作してしまう場合があります。ただし Microsoft が公式にサポートしない使い方であり、ライセンス監査が入ればアウトです。将来的に技術ブロックされるリスクもあります。

正規対応するには、SCA 対応の MS365 Apps for Enterprise(月額 1,799円)か、Office 365 E3(月額 3,448円)へのアップグレードが必要になります。

GWS は Webアプリ中心の設計なので、この問題が構造的に発生しません。共有PC でも各自の Google アカウントでブラウザからログインするだけ。ライセンス管理に頭を悩ませる必要がなくなります。

比較軸④ セキュリティとバックアップ

「セキュリティはどっちが上?」とよく聞かれますが、メールフィルタ、2段階認証、管理コンソールといった 基本的なセキュリティ機能 は、MS365 も GWS も十分に備えています。クラウドストレージにおけるファイル履歴管理や巻き戻し(特定のバージョンや日時での復元)機能も充実しています。このあたりでは差がつきにくいです。

差が出るのは、AI のセキュリティランサムウェアへの耐性 です。

AI セキュリティ については、比較軸②で触れた通りです。MS365 の Copilot は SharePoint の権限構造を参照するため、権限設計にミスがあると AI 経由で情報漏洩が起きるリスクがあります。GWS の Gemini は Google ドライブのシンプルなアクセス制御に基づくため、「誰が何を見られるか」を直感的に管理できます。

ランサムウェア耐性 は、あまり知られていませんが、製造業にとって重要な違いです。

ランサムウェアとは、PC やサーバー上の「ファイル」を暗号化して身代金を要求する攻撃のこと。しかし、Google ドキュメントや Google スプレッドシートは、一般的な意味での「ファイル」ではありません。専門的なので詳細は割愛しますが、これらは Google のサーバー内でデータベースとして管理されている構造データの集合体であり、厳密にはファイルではないのです。

つまり、仮に PC がランサムウェアに感染しても、Google ドキュメント内のデータは暗号化の対象にならない。構造的に免疫があるのです。

もちろん、ローカルに保存された Excel ファイルや、OneDrive に同期されたファイルは通常の攻撃対象になります。GWS を使っていても、PC 上のファイル管理は引き続き注意が必要です。ただ、日常の業務データがクラウド上で構造的に保護されている という安心感(いざ間違って削除または攻撃されても、巻き戻して復活!)は、バックアップ体制を考える上で大きなアドバンテージになります。

比較軸⑤ PDF・OCR と紙媒体への対応

「うちの工場はまだまだ紙が多くて……」——この声、本当によく聞きます。

検査成績書、作業手順書、FAX で届く注文書。製造業では紙が当面なくならない前提で、デジタル化の道筋を考える必要があります。

ここで GWS が地味に強いのが、Google ドライブの OCR 機能 です。PDF をドライブにアップロードすることで、自動的にテキスト抽出(OCR)が実行され、ドライブ内の全文検索の対象 になります。追加費用は一切かかりません。

「あの検査成績書、どこにあったっけ?」という場面で、PDF の中身まで検索できる。地味ですが、確実に現場の手間を減らしてくれる機能です。

さらに踏み込むなら、GAS(Google Apps Script)と Gemini API を組み合わせることで、「PDF をアップロードしたら、AI が内容を読み取ってスプレッドシートに自動転記する」といった処理を低コストで構築できます。

MS365 側でも、Office Lens(カメラアプリ)で紙を取り込んだり、AI Builder(Power Platform の一部)で類似の自動処理が可能です。ただし AI Builder は Power Apps Premium が前提となり、追加課金が発生します。

比較軸⑥ ノーコード開発——AppSheet vs Power Apps

「プログラミングなしで業務アプリを作れる」。この触れ込みは MS365 にも GWS にもありますが、実態にはかなりの差 があります。

Google の AppSheet Core は、GWS Business Standard に 標準搭載。Google スプレッドシートをデータソースにしたアプリ構築、オフライン対応、バーコードスキャン、QR コード読み取り、写真添付——現場で使える実用的なアプリが追加費用なしで作れます。

しかも、Frontline Starter(月額 520円)にも AppSheet が含まれているため、現場作業者のライセンスでもアプリを利用できる 点は見逃せません。

対する Microsoft の Power Apps。MS365 Business Standard に含まれるのは「Seeded版」と呼ばれる 大幅に制限されたバージョン です。本格的なデータベース(Dataverse)は使えず、外部サービスとの連携(カスタムコネクタ)も不可。オフライン対応もありません。

制限を外すには Power Apps Premium月額 2,998円/ユーザー。さらに自動化ツールのフル版 Power Automate Premium月額 2,248円/ユーザー

「ちょっと試してみよう」のつもりが、気づけば基本プランの倍以上の出費に——というパターンは、実際に耳にします。現場でノーコード開発を本格活用したいなら、この差は無視できません。

30名の製造業で試算すると、どうなるか

ここまで製造業で影響が大きそうな 6つの軸で比較してきましたが、最後に具体的なケースでコストを算出してみましょう。管理部門 5名、共有 PC 利用者 10名、現場作業者 15名——合計 30名の中小製造業を想定します。

MS365 の場合

対象

プラン

月額/人

人数

小計

管理部門

Business Standard

1,874円

5名

9,370円

共有PC利用者

Apps for Enterprise(SCA対応)

1,799円

10名

17,990円

現場作業者

F1

399円

15名

5,985円

管理部門AI

Copilot

3,148円

5名

15,740円

合計

49,085円/月

GWS の場合

対象

プラン

月額/人

人数

小計

管理・共有PC

Business Standard(AI込み)

1,600円

15名

24,000円

現場作業者

Frontline Starter

520円

15名

7,800円

合計

31,800円/月

月額の差は約 17,300円。年間で約 21万円 の差になります。

しかも GWS 側は 15名全員に AI(Gemini)が使え、AppSheet も全員が利用可能。MS365 側で AI を使えるのは Copilot を追加購入した 5名だけです。

もちろん、この試算は一つのモデルケースに過ぎません。自社の人員構成や利用するサービスによって数字は変わります。ただ、「表面上の月額はほぼ同じに見えるのに、全体で試算すると大きな差が出る」 という構造は、多くの製造業企業で注意すべき点です。

では、どちらを選ぶべきか?

いずれかが「すべての面で一方が優れている」という単純な話ではありません。自社の状況に合わせた判断が必要です。

MS365 が向いているのは、こんな会社です。

  • Active Directory(AD)で社内の PC やアカウントを一元管理しており、その運用を変えたくない
  • SharePoint を基盤にした社内ポータルやワークフローが既に稼働している
  • Dynamics 365 や Azure など、他の Microsoft サービスと深く連携している

要するに、既に Microsoft のエコシステムに深く組み込まれている 場合です。この場合は、MS365 をそのまま使い続ける方が合理的なケースが多いでしょう。

GWS が向いているのは、こんな会社です。

  • グループウェアの導入がこれからか、既存のグループウェアを見直したい
  • デスクレスワーカー(現場作業者)が多い
  • AI機能を追加コストなしで全員に使わせたい
  • ノーコードで現場向けアプリを内製したい
  • IT 専任者がいない、または少人数で IT を運用している

中小製造業の多くは、後者に当てはまるのではないでしょうか。

ちょっと待った!——あなたが Microsoft に「本当に」期待しているのは?

ここまで読んで、「グループウェアとしては GWS の方が合理的そうだ」と感じた方もいるかもしれません。

でも同時に、こんな気持ちが残っていませんか。

「いや、でも……やっぱり Excel と Word がないと困るんだよ」

その気持ち、すごくよくわかります。というか、その感覚は完全に正しい と思います。

30年以上にわたって磨き上げられた Excel の計算精度、複雑な関数、ピボットテーブル。Word の精緻なレイアウト、取引先に送っても恥ずかしくない文書品質。PowerPoint の圧倒的な表現力。そして、それらを見事に使いこなす社員のスキルと、ベテラン社員が長年かけて作り込んだ VBA マクロ。

これらは「慣れ」ではなく、業務資産 です。簡単に手放していいものではありません。

さて——ここで、記事の冒頭で確認したことを思い出してください。

MS365(グループウェア)MS365 Apps(デスクトップアプリ群) は別物です。

つまり、こう問いかけることができます。

あなたが Microsoft に本当に期待しているのは、メールやオンライン会議やクラウドストレージといったグループウェアの「基盤」ではなく、Excel や Word や PowerPoint というデスクトップアプリの「道具箱」ではないですか?

もしそうだとしたら、話は大きく変わります。

基盤 は GWS。道具箱MS365 Apps for Business(月額 1,236円)。

この 2つを組み合わせれば、「どちらか一方に決める」必要がなくなります。

メールも会議も AI も GWS で。ノーコード開発は AppSheet で追加費用の心配なし。でも、Excel も Word も VBA もそのまま使い続けることができる。つまり、グループウェアのコストは抑えつつ、必要な部門だけにデスクトップアプリを配置する方式です。

こういう 「基盤と道具箱」 の組み合わせ方——ハイブリッド運用こそ、中小製造業にとって最も現実的な選択肢かもしれません。

次の記事では、このハイブリッド運用の具体的な進め方を解説します。どの部門に何を配置するか、コストはどう最適化するか、VBA はどう扱うか。GWS と MS Office デスクトップアプリの「いいとこどり」を実現するための実践ガイドです。

👉 次の記事: GWS + MS Office ハイブリッド運用ガイド


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